2020年10月、メトロコマースの元契約社員が退職金の不支給について違法性を争っていた裁判の最高裁判決がありました。
具体的な事案
契約社員とは、契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者であり、一時的,補完的な業務に従事する者をいうものとされていました。満了後は原則として契約が更新され、就業規則上,定年は65歳。業務の内容に変更はなく,正社員と異なり,配置転換や出向を命ぜられることはありませんでした。
二審である高裁では、退職金の後払い、功労報償的な意味あいを指摘し、短期雇用を前提とした契約社員に退職金を支給しないのは不合理ではないとしつつも、現実は契約社員が10年にわたり長期勤続したことを踏まえて、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金を一切支給しないことは不合理である、と判断していました。
しかし、最高裁は二審の高裁判決を否定し、契約社員への退職金不支給は不合理ではないと判断しました。
ポイントは
①会社の退職金制度は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。
②両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があるのに対し、契約社員は業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかったものであり両者の職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があったことが否定できない。
③会社は、正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員を正社員に登用していたものである
以上の事情を踏まえ、最高裁は契約社員には退職金を支給しないという労働条件の差は、不合理とは認められないとしました。
判決を受けて企業の労務管理に活かすために
昨今、多様な働き方の選択肢が浸透してきたことで、正社員、契約社員、限定正社員、パートタイム社員、嘱託社員、など色々な雇用形態ができています。
しかし、これらの区分の労働条件の相違を設ける場合、具体的に任せる仕事の「職務内容」「責任の程度」「仕事の難易度」「配置転換の有無や範囲」「長期雇用前提可短期雇用前提か」について、それぞれの区分について整理しておくことをしなければ、今回のような争いになってしまいかねません。
またそれぞれの区分について上記を整理したうえで、その程度に見合った待遇が用意されているか、という視点も置いておく必要があります。
職務評価分析という手法
各社員区分、部門や職務により、実際どの程度の難易度や責任の重さ、困難度、専門性などがあるのかという点について、数値化して確認しようとする手法が「職務評価分析」です(下記表は厚生労働諸湯「職務評価活用のポイントと活用事例」より抜粋)。
職務評価分析を行うことで、業務の難易度や困難性に応じた待遇が確保されているか、という一つの目安をつけることができます。
弊事務所では職務評価分析の支援、それを活用した人事評価制度の導入の支援を行っています。
職務評価分析にご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせくださいね。
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