男性の育休取得後の配置換えに関する企業の対応がSNS上で話題になるなど、「マタハラ」や「パタハラ」という言葉の認知度・感度が高まってきたように思います。
何がハラスメントに該当するのかという点については、厚生労働省が作成した指針に詳しく述べられていますが、個々の事案についてハラスメントかどうかを判断するのは当事者にとって頭を悩ませる部分です。
原則、法律や指針の定めるところに沿って当事者同士が話し合いを行うことになりますが、折り合いがつかない場合は民事裁判に移行し白黒をはっきりさせることになります。ハラスメント事案に関わらず、法律で線引きが難しい労使関係のトラブルの解決は過去の判例も参考にしながら対応を考えていくのがよいでしょう。
育休復帰後の契約変更についての判例
本日は、育休復帰後の正社員の地位の変更、またそれに付随して行われた雇い止めの有効性が争われた判例をご紹介します。
事案の概要は
育児休業を取得した無期雇用契約労働者が、1年6か月の育休復帰後においても保育園が見つからなかったところ、会社から週3日の契約社員となる労働契約の締結を打診されました。契約書には「本人が希望した場合、正社員への再契約変更が前提」と記載されるものの、契約締結時においては「本人が希望した場合であっても無条件で正社員に戻れるものではない」という旨の説明を受けたうえで、契約社員となる雇用契約にサインをしていました。
ところが、保育園が無事見つかり正社員復帰を会社に対して打診したところ、会社はそれに応じませんでした。さらには「業務時間内に私用のメールを送受信した」などを理由にして契約社員としての雇用契約を期間満了により終了されました。
そこで労働者は、合意による正社員から有期契約への変更は均等法・育児介護休業法違反(いわゆるマタハラ)であり無効であること、希望すれば正社員に復帰できるものであったはずとして正社員の地位と正社員としての未払い賃金を請求できること、雇い止めは無効であることを主張し、訴訟を起こしました。
週3日勤務への労働契約変更は有効、雇止めは無効
しかし、東京地裁は本件有期契約への転換は、会社からの強要ではなく双方の合意があったものとして有効であると判断しました。
理由は以下が挙げられました。
①有期契約への転換は、育休がきれた労働者を救済する意図もありただちに労働者にとって不利益な合意とは言えず、会社から強要されたとは認められない。
②育休終了日には、会社側から「希望したら直ちに協議を経ずに正社員に戻れるものではないことを説明されたうえで契約を締結しており、錯誤により無効とは言えない。
一方で、有期契約の更新をしなかった(いわゆる雇い止め)ことについては、合理的な理由を核として無効と判断しました。
そして、労働者から正社員復帰の打診を受けた際、会社は契約変更のための誠実な対応を行ったといえないとして慰謝料100万円が認められました。
2019年11月、高裁にて逆転「雇止めは有効」判決
しかし、2019年11月の高等裁判所において逆転判決がでました。会社が禁止していたのに女性が執務室内で無断録音したこと、「事実とは異なる情報」をマスコミに提供したことなどをあげ、女性には「雇用の継続を期待できない十分な事由がある」として、女性の正社員の地位を認めず雇止めは有効と判断したようです。
育児・介護休業法では育休を理由とする不利益取り扱いを禁止
育児介護休業法において、育児休業、介護休業、妊娠、その他子の養育または家族の介護を理由とする不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
禁止されているのは、あくまでも妊娠等の状態や育介休業の利用などといやがらせ行為や不利益取り扱いとの間に、因果関係があるものです。
したがって、業務上必要な範囲で、また安全配慮等の観点から配置転換を行う、業務命令を行うことはハラスメントには該当しません。
また、不利益取り扱いと妊娠や出産、育児休業等の利用との間に因果関係があったとしても、「業務上の必要性から不利益取り扱いをせざるをえず、業務上の必要性が、当該不利益取り扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情があるとき」、または「労働者が当該取扱いに同意していて、有利な影響が不利な影響の内容や程度を上回り、会社から適切に説明がなされるなど、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在する時」については、例外的に不利益取り扱いにはならず、法違反にはなりません。
どの行為が不利益取り扱いに該当し違法になるのか、という点については判断が難しいですが、微妙なラインで配置転換や労働条件の変更を行おうとするときは、社会保険労務士などの専門家に事前に相談されることをお勧めいたします。
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