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執筆者の写真藥井遥(社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント・1級FP)

「社会保険適用促進手当」導入までの手順について解説

更新日:2023年12月10日




やくい社会保険労務士事務所の代表の藥井です。


令和5年10月に公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」において、106万円の壁への対応策として「社会保険適用促進手当」が盛り込まれました。


今回は、この施策の内容、そして企業はこれを受けて具体的にどのように対応したらいいのかについて解説していきたいと思います。










社会保険適用促進手当とは何か?

社会保険適用促進手当とは、令和5年10月以降に新たに社会保険に加入する従業員に対して、会社が手当や一時金を支給した場合に、社会保険料の算定において優遇を受けられるものです。


具体的には、新たに従業員本人が負担することとなった健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料に相当する額を、手当もしくは一時金などで支給した場合、その手当・一時金は、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)の算定基礎となる標準報酬月額に含めなくてよいという取り扱いがされることとなります。


従業員側に立つと、社会保険に加入することで保険料を自己負担する必要がある一方で、

自己負担保険料相当額の手当が別途会社から支給されるため、手取り減少のデメリットを小さく抑えられることになります。




ただし、この取り扱いをするには色々な制約があります。

□新たに令和5年10月以降に社会保険に加入すること

□標準報酬月額が10.4万円以下であること(通勤手当などの手当含み月額給与が107,000円未満)

□社会保険適用促進手当の額は、本人が負担する保険料相当額以内であること

□入社6か月以上経過しているパートタイマーに支給するものであること

□勤務先の会社で過去2年以内に社会保険に加入していなかったパートタイマーに支給するものであること

□年金事務所の事後の確認のためにも、名称は「社会保険適用促進手当」という名称をつけること(推奨)







標準報酬月額が10.4万円を超えた場合


社会保険適用促進手当の支給を受けていた方が、昇給や労働条件の見直しの結果標準報酬月額が 10.4 万円超となった場合、社会保険適用促進手当は標準報酬月額に算入する必要があります。


具体的には、は標準報酬月額 10.4 万円超となった月から社会保険適用促進手当を標準報酬月額の算定に含めることとなります。

社会保険適用促進手当を標準報酬月額の算定に含めることは固定的賃金の変動にあたるため、月額変更の 要件を満たす場合には、月額変更届の対象となります。







月額手当と支給するか?一時金として支給するか?


社会保険適用促進手当は、手当として支給することも、一時金として支給することも可能です。

手当として支給する場合と一時金として支給する違いは以下の通りです。




【手当として支給する場合】

※社会保険標準報酬月額の算定基礎から除外できる

※給与課税対象に算入する(所得税や住民税の対象となる)

※時間外手当、休日手当、深夜手当の算定基礎となる割増基礎単価に算入する

※平均賃金の算定に算入する

※標準報酬月額が10.4万円を超えた場合、月額変更届の対象となる




【一時金(賞与)として支給する場合】

※社会保険標準賞与額の算定基礎から除外できる

※給与課税対象に算入する(所得税や住民税の対象となる)


なお、一時金を支給する場合は、キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コースの対象とする場合は少なくとも6か月にまとめて支給することが望まれます。

こちらの助成金については、後日ブログで解説します。







社会保険適用促進手当の創設の具体的手順

「年収の壁・支援強化パッケージ」を受け、企業は具体的にどのように対応をとればいいのでしょうか。




社会保険適用促進手当の創設を検討すべき企業

社会保険適用促進手当を新たに支給するかどうかについては、企業判断となります(企業の義務ではありません)。

ただし、人手不足解消の対応策としてパートタイマーに労働時間を延長してもらいたいのであれば、社会保険適用促進手当を活用することは有効な手段となります。

また、パートタイマーを新たに社会保険に加入させ、社会保険適用促進手当を支給した会社はキャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コースの申請も可能です。

ぜひ、人材不足という課題に対して戦略的に「年収の壁・支援強化パッケージ」を活用していただきたいと思います。



社会保険適用促進手当を検討すべき企業は、以下のような課題に直面している企業といえるでしょう。



●令和6年10月以降、特定適用事業所(※)に該当するため、新たに社会保険の加入対象となるパートさんが多くおり、そしてそのパートさんの離職や勤務時間の短縮を防ぎたい企業

(※)特定適用事業所とは、法人単位で社保加入者が51人以上の企業で、令和6年10月以降には社会保険の適用対象者が拡大される事業所をいいます。

①週所定労働時間が20時間以上であること

②所定内賃金が月額8.8万以上であること(社会保険適用促進手当を含む)

③学生でないこと


●今いるパートタイマーさんに、所定労働時間を今より長く変更し、新たに社会保険に加入して働き続けてほしい企業






社会保険適用促進手当創設のための制度設計

これから社会保険適用促進手当を創設し、パートタイマーさんの社会保険新規加入を促進していくために検討すべき事項について解説します。





①現状、社会保険に加入しない年収・所定労働時間のラインで働いているパートタイマーが何人程度いるのかを把握する
※入社6か月経過後でかつ2年以内に社保に加入していなかった方を抽出

②パートタイマーに対して所定労働時間の延長を提案するのであれば、週何時間程度までの延長を提案するのかを決定する
※所定労働時間が週23~24時間を超える場合は、社会保険適用促進手当の対象とならない可能性が高くなります。
(時給1030円×週24時間×平均4.3週=106,296円+通勤手当3,000円=109,296円となり、標準報酬月額が11万円となるため)

③すでに社会保険に加入している同一条件で勤務するパートタイマーにも、社会保険適用促進手当を支給するかを決定する
※新たに社会保険の適用となったパートタイマーと、既に社会保険が適用されているパートタイマーとの事業所内での公平性を考慮し、事業主が同一事業所内で同じ条件で働く、既に社会保険が適用されているパートタイマーに対し、同水準の手当を特例的に支給する場合には、同様に保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しない措置の対象となります。

④適用開始から2年を経過した後、社会保険適用促進手当は継続支給するのか、支給を取りやめるのかを検討する
※上限の2年を経過すると、社会保険適用促進手当は標準報酬月額算定除外の特例は受けられなくなります。

⑤社会保険適用促進手当を、一時金(賞与)として支給するか月額手当として支給するかを検討する

⑥社会保険適用促進手当の支給にあわせ、キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コースの活用ができるか検討する

⑦社会保険適用促進手当の支給開始、および所定労働時間の延長・社会保険新規加入の期日を検討し、逆算してパートタイマーへの説明会などの段取りを整理する






社会保険適用促進手当を創設する場合は、社員への説明と就業規則への明記を


上記で記載したように所定労働時間を延長して新たに社会保険に加入してもよいと考えるパートタイマーを募るための制度説明会や、説明用資料の提供は必須です。


その際、社会保険に加入するメリットや、

社会保険に加入した後の給与の支給イメージなどについても説明できれば、

パートタイマー自身の社保加入後のイメージが付きやすく、加入を促しやすくなるでしょう。




また、社会保険適用促進手当を新設する場合は就業規則に規定することが必要です。

その際は、変更内容について従業員に対して意見を聞き、過半数代表者に意見書を記載していただいたうえで、労働基準監督署に届出をしてくださいね(従業員が10人以上の場合)。








※弊事務所では、人事・労務担当者に代わり社保手続・労働保険手続などを代行する 「労務顧問契約」をご提案しております。

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